医療に携わっている方でなくても知っていて誰でも触れる骨と言えば…
それは鎖骨である。
鎖骨は鎖骨単体をつかんで動かそうとしても大きく動く骨ではないが、肩関節を動かしたときには連動して鎖骨自体も動いている。
しかし、もっと細かく鎖骨の動きを見ていくと外側からでは分からないかなり複雑な動きをしている。
今回は、肩関節を動かした際に肩の動きと共に鎖骨はどう動いているのかを説明していこうと思う。
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鎖骨とは、胸の部分にあるネクタイのような形をした胸骨と肩を触れた際の出っ張りである肩峰の間を水平に走る骨である。
主な働きは、肩甲骨を支持すると共に腕を体幹から離した位置に固定することだ。
また、鎖骨は位置から考えても首や胸の近くにあることから付着している筋肉は多い。
つまり、肩こりや猫背の原因となる筋肉も鎖骨に付着しているものも多いため、施術をする上で鎖骨はとても重要なポイントとなってくる。
肩こりだけではなく、肩周囲の痛みの症状を改善に導くためにも、鎖骨がどのように動くか、というのを理解しておかなければならない。
先述したように、肩の動きに伴い鎖骨も動く。しかし、肩の痛みにおいてどの方向に肩(腕)を動かしたら痛いのかは人それぞれだ。
バンザイをするように腕を挙上して痛む人もいれば、後ろに引いたり、投球動作のような動き、腕を身体の前で振り子のように振る動きで痛みが出る人など、痛みの出方はそれぞれだが
これらどの動きをしても鎖骨は微妙に動く方向が異なる。その動きを理解して施術を行うと効果は全然違ったものになるだろう。
では、肩をどの方向に動かしたら鎖骨はどのように動くのか説明していこう。
肩の動きによって鎖骨が動く方向を説明する前に、鎖骨が持つ2つの関節面について簡単に説明しておこう。
これは知識なのでそういった名前の関節があるというだけだが、鎖骨と先述したネクタイのような形をした胸骨、ここで1つ関節が作られていてここをそれぞれ頭文字を取って胸鎖関節と呼ぶ。
もう1つの関節は鎖骨と先述した肩甲骨の出っ張りである肩峰で関節が作られていてこれを頭文字を取って肩鎖関節と呼ぶ。
肩関節の動きと連動して動く際はこの【肩鎖関節】と【胸鎖関節】で微細な動きが生じているのだ。
本題である肩関節に伴う鎖骨の動きを説明していくが、先述したように鎖骨の動きとは主に肩鎖関節、胸鎖関節で起きている。
肩鎖関節から説明していこうと思うが、肩鎖関節の動きは鎖骨自体が動いて微細な動きが生じるというよりは肩の動きに伴い、肩甲骨が動いて肩鎖関節面に動きを生じさせている。
では、実際に肩・腕をどの方向に動かしたときに肩鎖関節で動きが生じているのだろうか?
①腕を前に伸ばし挙上していく動き、気をつけの姿勢から腕を横に挙げていく動き(肩関節屈曲、外転)
この動きをした際の肩甲骨の動きを考えると肩甲骨は反時計回りのような動きをしている。
運動学的用語で言えば、肩甲骨の上方回旋になるが、腕を挙上していく屈曲の動きも横から挙げていく外転の動きも肩甲骨の動きは反時計周りの上方回旋になる。
また、特徴としては腕を挙上していき高く挙げた形というのはイメージ的には肩甲骨も一緒に上方向に上がっているイメージだが、実は腕を高く挙げた際は肩甲骨は下に下がっているのだ。
そして肝心な肩峰関節面での動きは、お腹側へ向かって面滑り、転がり、頭側(上方)への面滑り、この3つの動きが組み合わさる。この動きを『回旋系の軌道』と呼び、この動きによってさらに肩甲骨の軸回転の動きも加わる。
ここで登場した関節面の動きである滑りや転がりといった動きは、イメージとしてはどのような動きなのだろうか?
滑りというのは、イメージするならスケートのように氷の上に足を着けて滑るようなもので氷の上に着けている足の位置は変わらないが滑っている氷はどんどん位置が変わっていくのでこのことを滑りという。
転がりというのは、イメージするならでんぐり返しが良い例だが転がった際に背中と地面の位置は互いに変わりながら回転していくといったイメージである。
②腕を後ろに反らす動き、引き戸を開閉するような動き(肩関節の伸展、体側での外旋・内旋)
これらの動きをした際の肩甲骨は内転+下方回旋する動きとなる。
つまり、内転=内側にスライドするように引かれ、かつ時計周りのように肩甲骨が回転する下方回旋が加わった動きとなる。
そして肩峰関節面では①とは真逆の動きが働き、背側(背中側)+やや尾側(お尻側)方向へ面滑りをするのだ。
③投球動作の動き(肩関節90°外転位、肘関節90°屈曲位での外旋、内旋)
②のような動きで肩甲骨は内転+下方回旋の動きをするが、投球動作のような肘を曲げ肩を後ろに引いたあと、前に振り下ろすような動きをした時、肩甲骨は内転をせずに下方回旋のみ行う。
その時、肩峰関節面では尾側(お尻側)への面滑りと腹側(お腹側)への面滑りが組み合わさった『前傾系の軌道』と呼ばれるラインを通る。
④アイーンをするときの動き(水平内転、水平外転)
志村けんのネタであるアイーンの腕の動きが一番イメージが湧きやすいと思うが、あの動きを運動学的用語で水平内転と呼ぶ。その形のまま後ろに肘を引く事を水平外転と呼ぶ。
この動きの特徴は『回旋系の軌道』を頭側(上方)方向へ最大限に移動することであり、また肩峰関節面は頭腹側へ移動する。
この時の肩甲骨の位置はアイーンと腕を動かす前、つまり構えている時点で少し上方回旋(反時計回りの動き)している。そこから水平内転をすることで、上方回旋に外転の動きが加わる。
『回旋系の軌道』とは、肩甲骨の上方回旋と外転を同時に行うもので、肩甲骨の外転のみの動きは不可能であり、必ず上方回旋を伴う。
⑤後ろ手でエプロンのひもを結ぶ動作
後ろ手でエプロンのひもを結ぼうとした際の肩甲骨の動きを見ると前方傾斜している形となる。この時の肩鎖関節は先述した『前傾系の軌道』を辿る。
つまり、肩峰関節面の動きは尾側と腹側に面滑りをするのみということになる。
さて、それぞれ肩・腕の動きによって肩鎖関節の関節面での動きが異なるということがご理解頂けたと思うが次は鎖骨が持つもう1つの関節である胸鎖関節の動きについて説明しよう。
前章で述べたように鎖骨と胸骨が関節を作りそれを胸鎖関節と呼ぶ。ここもまた肩・腕の動きに伴い、微細な動きが生じている部分だ。
骨運動では、鎖骨の挙上と下制、前方・後方への牽引、軸回転を生み出す。では、そんな胸鎖関節は肩・腕の動きに際してどのような微細な動きをしているのか説明していこう。
①腕を前に伸ばし挙上していく動き、腕を後ろに反らす動き(肩関節屈曲伸展運動)
腕を①のように動かすと、鎖骨は挙上+後ろに引かれる動きをする。少しイメージしにくいかもしれないが鎖骨がその形のまま挙上していくと、胸鎖関節での鎖骨関節面は尾側(お尻方向)へ面滑りし
後ろに引かれる動きの際に関節面は腹側(お腹側)へ面滑りをする。その動きの結果、背側(後方)への軸回旋の動きも行われる。
②腕を振り子のように内へ外へ動かす動き(肩関節内転、外転運動)
振り子のような動きで腕を外へ動かす動き(外転)では、①の腕を挙上する動きと同じく鎖骨の挙上・後方牽引・軸回旋が起こる。
少し①の復習になるが、外転における挙上の動きは関節面では①と同様に尾側への面滑りが起こるが、加えて転がりも起こる。
後方牽引は①と同様に腹側への面滑りが起こる。また、最後の軸回旋とは別に軸回転の動きもあるが軸回転は単独ではその動きを出すことができない。
①のように他の動きの結果、軸回転の動きが起こるのだ。しかし、例外はあり、何らかの外力が加われば単独で軸回転を起こすことができる。
その何らかの外力とは何か?振り子運動を外側の方向へ最大まで動かしていくと、上腕骨と呼ばれる力こぶのある部分の骨が、肩峰を外側から押すことになる。
この上腕骨からの外力によって鎖骨関節面での軸回転を発生させることとなるのだ。
③腕を後ろに反らす動き(伸展運動:補足)
①の補足となるが、腕を後ろに反らす動きをすると鎖骨は後方牽引される。そして関節面では腹側への面滑りが起こる。
さらに細かい動きを言えば、若干の腹側方向への軸回旋を伴い、関節面の引き離しの動きも起こる。
④引き戸を開閉するような動き(内旋・外旋運動)
この動きにおいては特に鎖骨の挙上や下制、前方、後方への牽引は起こらない。しかし、引き戸を開くときのような外旋の動きに伴ってわずかに③のような関節の引き離しが起こる。
➄投球動作(90°外転位で内旋、外旋位)
この動作での鎖骨の動きとしては、前方牽引と下制、軸回旋である。
関節面での動きとしては、球を投げ切った時のように腕が下の位置にくる過程(内旋)で背側への面滑りが起こり、ちょうど腕の位置が上と下の中間地点で軸回旋も発生する。鎖骨が下方向に下がる下制の動きでは頭側への面滑りが起こる。
⑥アイーンをするときの動き(水平内転・外転)
これは鎖骨を実際に触って頂きながら確かめてもらいたいと思うが、アイーンの動作をする際に鎖骨はあまり動かない。
しかし、アイーンをして腕が内に入ってくるとき、関節面では関節面同士が近づく「圧縮」と呼ばれる動きが見られる。この腕が内に入る際に鎖骨と胸骨の関節面が近づくというのは少しイメージがしやすいだろうか。
➆肩を下げる動き(鎖骨下制)
肩をすくめるようにしてからスッと肩を落とした時など、肩自体を下げた際には鎖骨も同じように下制する。ちなみに、この時、肩甲骨の動きとしては下制+下方回旋する。
この動きでの胸鎖関節の関節面での動きは、転がりと頭側への面滑りが起こる。
⑧後ろ手でエプロンのひもを結ぶ動作
この動作での鎖骨の動きは前方牽引と若干の下制が見られる。この動きは➄の投球動作と同じで腕が下向き(内旋)になる。
しかし、前方牽引の要素が少ないため、関節内運動は投球動作よりも少なくなる。
かなり細かく分類したが、以上が胸鎖関節での動きとなる。文字だけで見るとややこしく難しく感じるが実際に鎖骨、肩甲骨を触りながら動かしてみたり動きをイメージしてみると理解が深まるかもしれない。
鎖骨の動きや機能について長々しく説明してきたわけですが、肩こりや首こりなどの原因の1つが、鎖骨の歪みの事もあります。
そんな、鎖骨の歪みを矯正する体操のやり方をご紹介します。
これまで1章、2章と鎖骨が持つ関節での動きを列挙してきたが、臨床においてこの動きが頭に入っていると大きく治療に生かすことができる。
例えば、よくある背中で手を組む動作。片側の手は組めるけどもう片側の手は組めないという人は多いのではないだろうか?
これも鎖骨、また肩甲骨の動きが関係してくる。手が組めるときの鎖骨の位置と組めないときの鎖骨の位置。これを見比べてどちらに動きが出ていないのか、そのときの肩甲骨の動きはどうか?など。
その動きを見極めることができれば、問題が鎖骨なのか肩甲骨なのか、または違う骨にあるのかが分かりより的確に患者さんの身体の状態を把握し原因究明に近づくことができる。
なので施術者において肩関節、鎖骨、肩甲骨の動きの知識は必須となるのだ。
今回は鎖骨の動きを中心に記していったが、この記事を読んでより身体の構造、骨の動きに関心を持つことができたら幸いである。
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