顔色が良い、顔色が悪いというのは、体調の善し悪しを簡単に判断出来る診察法の1つである。
誰でも容易に使えるこの診察法。
私たち鍼灸師も、患者の具合を推測する為によく使う方法である。
鍼灸師の世界では、外見から体調を診断する時に、望診(ぼうしん)という方法を使う。
望診では主にどういう事を診るかというと、
そして、「五華」といい、爪や唇などを見て、その体の部分に対応した、どこの内臓(臓腑)が悪いのか推測したりもする。
さて、相手の顔色を見て調子の良い、悪いを判断する診察法。
東洋医学的に考えて、そもそも、どこの臓腑が悪くなると顔色に影響が出てくるのか?
また、顔色を良く見せるために東洋医学的観点から考えられることは?
今回は上記2つのテーマを中心に、考えていきたいと思う。
目次
体調の良い人は顔色が良い事が多く、体調が悪い方は顔色が悪くなる傾向が強い。
顔色の良い悪いは、顔の血色が良い、悪いとも言い換えられる。
つまり、血液が循環していれば顔色は良くなり、血液の循環が悪ければ顔色が悪くなるわけである。
この血液。
とても大事な物質の一つだが、東洋医学では皆さんが想像する『ち』とは違った考え方をする。
では、東洋医学で考える「血(チではなくケツ)」とは、どのようなものか?
「血(ケツ)」とは、血脈中を流れる赤色の液体の事で、豊富な栄養分を有しているものである。
また、血は心臓から全身に送り出されるイメージがあると思う。
東洋医学では心臓から押し出される力に加えて、『気』の働きで血を送り出ると考える。
そして、血が全身をくまなく滋養(細胞に栄養を染み込ませる事)している。
なので、落ち込んでいたり、元気がない時は、血流は悪くなるのである。
気については『気分が優れない原因は気の不足【おらに元気を分けてくれ!】』でまとめているので、参考にして貰いたい。
これが東洋医学でいう血(ケツ)である。
では、その血(ケツ)と関係する臓腑とは、どの臓腑なのか?
心(しん)とは、心臓に似た働きをするものである。
何故、似た働きをするという表現になるのかというと、東洋医学でいう心は、心臓とは違った働きをすると、考えているからである。
東洋医学が盛んだった時代は、今のように医学が発達していなかった上に、体を解剖する事も少なかった。
なので、人間の体を、自然の摂理と重ねて考えていたのである。
臓腑の中の心は、血を主っている(つかさどっている)
心とは「心臓」をイメージしてもらえれば良いが、血(ケツ)を全身へ送り出す作用がある。
まさしく心臓である。
心は血液循環の原動力となり、血は全身をくまなく循環し、組織・器官を滋養する。
しかし、心に問題が生じる場合がある。
例えば、心への滋養が不足していたり、また心は熱の影響を受けやすい。
体内の熱や夏などの気候の暑さの影響を受けると、心の機能が弱り、血の拍出・循環に影響が及ぶ。
結果、全身へ血をうまく送り出すことができなくなる。
また、動悸や不整脈といった症状が起こりやすくなる。
東洋医学では、臓腑の状態は外見に現れると考えられている。
心も臓腑の内の1つなので、心の状態は外見として現れる。
その症状が現れる部位が「顔」なのである。
つまり、心の状態は顔を見ればわかるということだ。
先述したように心は血をつかさどっており、血液循環の原動力で、全身の組織を栄養している。
この心の機能が失調し、血液循環がうまく行えなくなると、その症状が顔に出てくるというわけだ。
つまり、「顔色が悪い」ということになる。
また、もう1つわかりやすく心の状態を見れる部分がある。
それは「舌」である。
舌診とも言うが、舌は血の充足度を反映している。
心の機能が失調し血液循環が悪くなると、舌への血の充足度は減り、舌の赤い色が薄く見える(舌質淡泊)
また、心が熱の影響を受けていたりすると、舌の赤い色が強く見えたり(舌質紅コウ)、赤い点が舌の表面に見えるようになる(紅点・点刺)
このように心は顔色や舌などで、体がどのような状態かを見る事ができるのだ。
私達は相手の顔を見た時に、なんとなく口の周囲、唇の色、状態も目に入ってこないだろうか?
例えば、唇の色がピンク色などではなく、紫色のように暗い色だった場合。
特に医療の勉強をしていない人が見ても、体調が悪いのかな?と思えるだろう。
先述したように顔色の状態から判断できるのは心だが、唇に対応した臓腑もあり、その臓腑の状態は、唇を見ればわかるとされている。
その唇に対応した臓腑は『脾』である。
脾とはどんなものか?
現代では、古くなった血液(赤血球)を壊して体から取り除く働きや、免疫に関わる働きをするものとされている。
しかし、東洋医学では、また違った働きをすると考えているのである。
東洋医学では、脾を次のように考えている。
簡単に説明すると、体を動かすには気が必要なのだが、気を作りだすには、その材料となるものが必要だ。
その材料を食材から取り出して、気を作るのである。
しっかり食べないと気が作られないので、元気がなくなる原因ともなる。
また、血管をコーティングして、血液が血管から漏れでないようにするのも、脾の働きである。
脾が弱まると、不正出血が起こる可能性も高い。
また、生理特性として、
胃下垂で悩んでいる方も多いと思うが、東洋医学では内臓の位置を正しい位置にとめておくのも、脾の働きだと考えている。
脾の機能、特性として上記のことが挙げられる。
特に、脾が飲食物を気の元となるものに変化させ、吸収しているという機能に注目したい。
気とは生命活動を維持する物質で、全身の組織や器官を巡り体中に満ちているものだ。
もちろん、筋肉、四肢に至っても例外なく気の循環を受けている。
それはつまり、脾の機能の調子が悪くなれば筋肉、四肢に影響を及ぼすという事である。
また、唇は筋肉の範疇と考えられており、口の一部分でもあるため、唇の光沢や色彩は脾の状態を反映するとされている。
実際に脾の機能が失調し、四肢、筋肉や唇を十分に気が循環せず細胞を栄養することができないと、四肢の無力感や萎縮、口唇の乾燥などが起こるようになる。
顔色を良く見せるには、上記で述べてきたように、血がしっかりと全身を循環していることが必要不可欠である。
そして、その血をつかさどっている心の調子も良くなくてはならない。
でないと、全身へうまく血を送り出すことができなくなってしまうからだ。
大きなポイントとして2つ挙げたが、各ポイントの細かい説明をしていこう。
顔色を良くするために必要不可欠な血。
まず血を体の中で作る、増やすにはどうすれば良いのか?
血とは摂取された飲食物が消化・吸収され形を変えたものである。
また、血は「精」という気の源からも作られるが、飲食物から作られる割合の方が多いため、規則正しい食生活が血をたくさん作れるか否かに関わってくるのだ。
では、次にその血を全身へ送り出す機能を持つ心の調子を整えるには、どのようにすれば良いか?
まず、心は血を送り出す機能の他に精神活動をつかさどる機能もある。
しかし、精神活動をつかさどっているが故に、ストレスなど精神、意識への影響を受けやすく、それらによって心の機能が失調してしまう。
そのため、悩み苦しむようなストレスは心にダメージを与え、失調する原因となるため極力避けた方が良い。
実際に心の機能が失調している影響で顔色が悪くなっている場合は、血がうまく循環されないため、血の赤みが消え顔色は淡泊でツヤがなく、唇の色も同じく淡泊な色になってしまう。
こういった場合、鍼灸師は心血虚証という診断名をつける。
そうなってしまった場合、心の機能失調を回復させなければならない。
鍼灸学において、心の機能を回復させるツボは心と名のつく経脈(手の少陰心経)、または背中にある「心兪」にお灸、さらには鍼治療をするのが良いとされている。
または、血の循環を良くしたいので血という字が入っているツボ「血海」や「三陰交」というツボを刺激するのも良い。
血海の場所は、膝のお皿より内側、そして膝のお皿の上の部分から指4本分上にある。
膝を伸ばした際に上記付近にくぼみができると思うのだが、くぼみの中央ではなくくぼみの少し上に血海がある。
押すと少し痛みを感じる場所だと思うので、指でゆっくり3秒ほど押してゆっくり離すというのを繰り返し刺激してもらいたいと思う。
「三陰交」は内くるぶしから指4本分、上に上がったところの骨と筋肉の間にある。
この部分も血海の時と同じく、ゆっくり押してゆっくり離すで刺激してもらいたい。
血海も三陰交もツボだが、押す力は強くなくても大丈夫なので、無理のない程度に押して頂きたい。
たとえ痛みがあったとしても、痛気持ちいい程度の力でも充分に効く。
指で押して刺激する以外にも、そのツボの部分をお灸などで温めることも有効である。
そうすることで血の循環不全が良くなり、その血を送り出す原動力の心の機能失調も回復に向かう。
血が滞ることなく全身くまなく巡り、各組織を栄養していけば、自然と顔色も良くなり綺麗になるのである。
今回は、顔色について東洋医学的に考えてきた。
ポイントは、
・顔色を良く見せるのも、悪く見せるのも、血が大きく関わっている、
・血や心の調子を整えるには血海や三陰交のツボがおすすめ。
今回紹介した2つのツボは、月経痛など女性的な疾患改善にもよく使われるツボなので、それらのお悩みの方には是非、実践して頂きたい。
血の循環を今よりもっと良くし、お顔をより美しく見せるきっかけになれれば幸いである。
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